ここでは「成体脳ニューロン新生を発見した研究者アルトマンの伝記」、「成体脳ニューロン新生の私的研究史」、「成体脳ニューロン新生」を解説した日本語の総説を掲載しました。
1960年代初め、ジョセフ・アルトマンJoseph Altmanは、大人の脳でもニューロンが生まれていることを発見した。しかし、この脳科学の常識を覆す大発見はやがて忘れ去られ、1990年代後半になってから、ようやく世界で広く認められるようになった。現在この現象は最もホットな話題として世界中で研究されているが、アルトマン自身については意外と知られていない。はたして彼はどのような研究者なのか?
グリアがニューロンになる話 大人の脳でもニューロンが生まれているという発見は、100年間信じられてきた脳科学の常識が破られるような大発見だった。このような、今まで信じられていた常識を破る大発見は、そうたびたび起こらない。しかし、この分野ではもう一度大きな発見があった。そのカギとなるのは、ニューロンを作り出すおおもとの細胞、神経幹細胞だ。
海馬の顆粒細胞の観察から 「大人の脳でもニューロンが生まれている」こんな話を聞いたことがありますか?最近脳科学では、いろいろな分野でこの話題がさかんに議論されています。しかし、この現象自体は、今から40年も前にAltmanによって発見されていました。それではなぜ、いままで「大人の脳ではニューロンは生まれない」と信じられていたのでしょうか?今回は、この現象に私が関わることになったきっかけをお話ししながら、その理由を考えてみましょう。
従来、「神経細胞は胎児期に生まれ、大人になると新しく生まれることはない。そして、成人の脳では毎日大量のニューロンが死んでいる」との考え方が常識であった。しかし、1990年代後半から新しい技術を用いて、成体の脳でも、海馬(歯状回顆粒細胞層)や側脳室下帯では、ニューロンが新しく生まれていることを示すが証拠が次々と報告された。その結果、100年以上信じられてきた、ニューロン新生に対する否定的なドグマ(Cajalなどの偉大な脳科学者が確立した)は崩れ、パラダイムの大きな転換が起こった。現在では、このパラダイムの転換を機に新しい方向の研究がつぎつぎと始まっている。本総説では、成体海馬におけるニューロン新生過程について解説した後、この様な特殊な部位を形成する過程、すなわち、海馬歯状回顆粒細胞層の形成過程について考察する。
ネズミから人の研究へ 脳のニューロンは、成体では新しく生まれることはない。ところが、記憶や学習に関係する海馬では、例外的にニューロンの新生が続いている。この現象は、1990年代 初頭、私を含めた ごく少数の研究者によって研究されていた。しかし、その後の10年間で、多くの研究者に知られるようになり、現在では世界中で活発な研究が行なわれている。いったい、この10年間に何が起こったのだろう?